
ベックフォルディペンシルフィッシュは、鉛筆のように細長い体型が名前の由来となったペンシルフィッシュの仲間で、ナンノストムス属の中では最もポピュラーで流通量の多い種です。1872年にイギリスの博物学者ギュンターによって記載され、種小名は標本の提供者であるベックフォード氏にちなんでいます。日本では「ゴールデンペンシル」や単に「ベックフォルディ」の名で古くから親しまれています。
体側には吻端から尾ビレ基部まで一本の太い黒色縦帯が走り、その上側は黄金色〜赤褐色に、下側は銀白色に輝きます。オスは成熟すると体側や各ヒレが鮮やかな赤に染まり、特に発情時やオス同士のディスプレイ時には全身が燃えるような赤色になります。夜間や驚いたときには縦帯が消えて代わりに暗色の横縞が3本浮かび上がる「夜間色」への変化も本種の面白い特徴で、朝に照明をつけた直後は別の魚のように見えることがあります。
多くのペンシルフィッシュが斜め上を向いた姿勢で静止するのに対し、本種は水平姿勢で活発に泳ぎ回ります。分布はガイアナ、スリナム、フランス領ギアナのギアナ地方からアマゾン川中・下流域、ネグロ川流域まで広く、水草の茂る流れの緩やかな小川や氾濫原に生息しています。分布域が広く個体数も安定しているため、IUCNレッドリストでは軽度懸念(LC)に評価されています。丈夫で水質への適応力も高く、ペンシルフィッシュ入門種として最適な魚です。
最も懸念が少ない
Least Concern(LC)
絶滅のおそれが低い状態
最大でも6cm程度の小型魚なので、6〜8匹程度の群れであれば30cm水槽から飼育できます。本種はペンシルフィッシュの中では活発に泳ぎ回るため、できれば45cm以上の横幅のある水槽を用意すると、群れで泳ぐ姿やオス同士のディスプレイを存分に楽しめます。 レイアウトには水草を多めに植え、流木や浮き草で薄暗い落ち着いた環境を作ってあげると発色が格段に良くなります。明るすぎる照明や隠れ家のない水槽では色が褪せて臆病になりがちです。底床は暗めの砂やソイルを選ぶと、体側の黄金色と赤色が引き立ちます。 水質は弱酸性〜中性の軟水を好みますが、適応力は高く、中性付近の一般的な水道水でも問題なく飼育できます。ただし水流は苦手なので、フィルターの排水は壁面や水草に当てるなどして流れを弱めてください。小型魚で飛び出すこともあるため、フタは必ず設置しましょう。週1回1/3程度の水換えを行い、水質を安定させることが長期飼育のコツです。
野生下では小さな昆虫、甲殻類、藻類などを食べる雑食性です。口が小さく上向きについているため、飼育下では細かく砕いたフレークフードや小粒の顆粒フードを主食にしてください。大きな餌は食べられずに吐き出してしまうので、口のサイズに合った餌を選ぶことが重要です。 副食として冷凍または生のブラインシュリンプ、ミジンコ、細かく刻んだ赤虫などを与えると、発色が良くなり繁殖行動も活発になります。特にオスの赤色を引き出すには、アスタキサンチンなどの色揚げ成分を含むフードや動物質の餌を定期的に与えるのが効果的です。 1日2回程度、数分で食べきれる量を与えてください。ゆっくりと餌を食べる魚なので、混泳水槽では素早く餌を奪う魚に負けてしまうことがあります。水面に広がるフレークと沈みの遅い顆粒を組み合わせ、群れ全体に餌が行き渡るように工夫しましょう。
性格は温和で、他魚に危害を加えることはありません。ただしオス同士は縄張り争いでヒレを広げて向かい合い、追いかけ合うディスプレイを頻繁に行います。これは本種の見どころのひとつで、ヒレが裂けるような本格的なケンカになることはまれですが、オスを複数入れる場合は水草で視線を遮れるレイアウトにしてストレスを分散させてください。 混泳相手としては、同程度のサイズで温和な小型カラシン(ネオンテトラ、ラミーノーズテトラなど)、小型ラスボラ、コリドラス、オトシンクルス、小型プレコなどが適しています。同じ水層を泳ぐ他のペンシルフィッシュとの混泳も問題ありません。チェリーシュリンプなどの小型エビは、稚エビこそ食べられることがありますが、成体は共存可能です。 一方、エンゼルフィッシュや大型シクリッドなど口の大きな魚には捕食されるため混泳は避けてください。またスマトラやブラックテトラのような気の強い魚と一緒にすると、おとなしい本種は餌を取れずに痩せてしまいます。ベタやグラミーなど上層を泳ぐ魚とは餌場が重なるので、餌が行き渡っているかよく観察してください。
朝に照明をつけた直後、体側に3本の横縞が出て縦帯が消えていても病気ではありません。本種特有の「夜間色」で、しばらくすると通常の模様に戻ります。
オスの赤色を最大限に引き出すには、暗めの底床と水草の多いレイアウト、そして色揚げ効果のある餌や冷凍ブラインシュリンプの定期的な給餌が効果的です。
口が小さいので餌は細かいものを選んでください。大きなフレークは指で砕いてから与えると食べ残しが減ります。
オスは体側とヒレが赤く、メスは腹部が丸みを帯びて色が淡いので判別は容易です。オス2〜3匹にメス3〜5匹程度の比率にすると、オス同士のディスプレイが分散して落ち着きます。
繁殖は比較的容易で、ウィローモスなどの細かい葉の水草に卵をばらまきます。親が卵を食べるため、本格的に殖やすなら産卵後に親を別水槽へ移してください。
水流が強いと体力を消耗して痩せてしまいます。フィルターの排水は壁面に当てるか、スポンジフィルターを使って穏やかな水流にしてください。